2008年12月21日 (日)

其之四拾壱

「みんなー、買ってきたよー」

そう言って、腕に缶ジュースを抱えながら藍ちゃんが

部屋に入ってきた。

「お、ありがとー」

「気が利くねー」

「瑞樹、いい彼女もって幸せだねぇ」

口々に皆が藍ちゃんを褒めているものだから

なぜか僕もこそばゆい感じがした。

「そういや、瑞樹、ここはこんな感じだったっけ?」

そう言いながら、俊介は、エレキギターをつまびいた。

軽快なフレーズが室内に響いた。

ここは、学校から近いところにある、練習スタジオ。

なぜ、こんなことをやってるかって?

それは、数日前のこと。

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「瑞樹ー!バンドやろうぜ」

そう言いながら、スマイリーは僕の机に駆けて来た。

「え?急にどうしたん?」

「そりゃ、オマエ、モテるからに決まってんだろ」

「そ、そうか・・・・な?」

「って、そうじゃなくて、皆で思い出作りたいってのが

ホントなんだけどな。文化祭が間もないじゃん。

オレ、実は従兄弟がドラムやってて、多少なら

叩けるんだ」

「へえー・・・意外」

スマイリーにそんな特技があったなんて。

「で、俊介も、バンドやってるから、

ギター弾けるっしょ。和也も、器用だから

少し練習すればベースくらいできるだろ。

・・・・・・で、瑞樹、ヴォーカルな」

「え?」

「いや、オレらん中じゃ、一番歌上手いじゃん。

そりゃ、オレがやりたいのはヤマヤマだがな」

「あ、・・・ああ・・・・オレでいいの?

あれ?でも、谷本は?」

「ああ、アイツは、・・・・どうするかなあ・・・」

僕とスマイリーは、谷本のクラスに向かった。

「お、おい。アレ・・・・」

そう言ってスマイリーが指差した先には、

谷本が女の子と談笑してるようだった・・・

あ、その女の子って、陽子ちゃんじゃん・・・

どうやら、谷本はその後、陽子ちゃんと

隠れて何度かコンタクトをとり、

かなりいい感じになっているらしかった。

それを見たスマイリーは正直、とまどっていたのが

分かった。

その後、谷本に話しかけたら、

あいかわらずの軽い調子で

「おお、やる、やる・・・・できることがあるなら

なんでもやらせてくれよ」

と言ってきた。

「ああ、それじゃ、また伝えに来るよ」

そう言って、僕らはその場から離れた。

スマイリーはその道中、谷本について

しきりにグチっていた・・・

まあ、たしかに全然、僕らは知らなかったことなので

驚きはしたんだけど・・・。

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その後、俊介と和也の所に行き、バンドのことを

告げた。

「ああ、いいよ。やろうぜ。実はあの大会で

足をやっちまって、全然ヒマしてたとこなんだ」

俊介はかなり乗り気でOKサインを出した。

和也は、「特に断る理由もないし」と照れくさそうに

言ってはいたが、ホントは少し嬉しそうだったことに

僕は気付いた。

いつもクールにこなしていた彼だが、

実は一瞬表情に緩みができるんだ。

それに気付いたのは僕だけだろうか。

そしてなにより嬉しかったのは

ホントは、この僕だったんだ。

みんなとこうしてひとつのことに向かえるってのが

僕にとっては久しぶりなことで貴重なことだったんだ。

こうして、僕らの文化祭バンドプロジェクトが

発足したんだ。

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2008年9月22日 (月)

其之四拾

「お勤めごくろうさまです」

「うむ。ごくろう、ごくろう・・・・って

何やらせてるんだよ」

僕は、和也に突っ込んだ。

ようやく自宅謹慎が解け、ひさしぶりな教室には、

変わらないクラスメイトたちがいた。

実は、登校するのが怖かった。

あんな事を起こした僕にクラスメイトはどんな対応を

してくるのだろう。

頭の中でいろんな事が巡り巡った。

だけど、心配するようなこともなく、それとは逆に

英雄になったかのように崇められた気がした。

そんなに話しをすることのなかったようなヤツでも、

僕にあの時の様子を聞きに来るくらいだ。

でも、麗華のクラスじゃ、株も大急落だろうな

・・・・アハハ

「おい、ところで。明日、テストだぞ。勉強大丈夫か?」

和也は心配そうに言った。

僕がずっとヘコんでいたのを知っていたから、

勉強に手が付いてないと思ったんだろう。

「ああ、バッチリ!バッチリ!まかせてよ」

僕は、いつにもなく強気に言った。

「ただし、日本史だけだけど・・・」

僕がそう言うと同時に和也も同じように言った。

僕らは顔を見合わせて笑った。

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「それじゃあ、テストを返すぞ・・・・

有田・・・石川・・・」

テスト直後の日本史の授業で、僕らの担任、井上が

採点後の答案を僕らに返却した。

僕が呼ばれるまで、案の定、点数の低い者だけ、

点数を読み上げた。

「沢井・・・・沢村・・・・」

僕の番だ。

「・・・・・・??・・・・・・

・・・・・ぐむぅ・・・・・」

井上の顔が歪んだのが感じ取れた。

僕は答案を受け取った。

「っしゃー!!!94点!!!」

思わず、僕は叫んだ。クラスの皆は、笑っていたが

拍手をしてくれた。

「・・・よ、よく頑張ったな・・・・・次も頑張れよ」

井上は少し動揺していたようだ。

僕のほんの些細な復讐は終わった。

もう必死になってやることもないだろう・・・

学生の本分は勉強というけれど、これからは今まで

やれなかったこと、自分のやりたいことに力を入れる

ことに決めたんだ。

いや、本当言うと、もう勉強はコリゴリって

だけだったりする・・・・すんません。

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2008年8月12日 (火)

其之参拾九

「完敗だ。ちゃんと練習してたんだな」

石川が俊介に近寄り、握手を求めてきた。

「ああ。お前を倒すには生半可な稽古じゃムリだよ。

隠してて悪かった。この間は、すまなかったな」

俊介は、石川の手を握り、お互いの健闘を称えあった。

「しかし、よくその足で闘ってたな・・・・」

「え!?」

石川が、指差して言ったので、僕らは俊介の

右足首に注目した。

俊介の足首は、赤く腫れ上がっていた。

今まで誰も気付きはしなかったんだ。

「ああ、前の試合で、ちょっとな・・・。

ホントは立ってるのも、やっとなんだ」

俊介の額からは暑さによるものとはまた違った

脂汗のようなものがしたたっていた。

「その状態で負けたんだ。完敗だよ、今回は。

でも、今度は絶対負けねぇから覚悟しとけよ」

石川は、俊介の右手をさらにギュッと握り締めた。

「ああ。またな」

俊介もそれに呼応するように石川の手を握り返した。

その後、俊介は足を引きずりながら僕のところに来た。

「瑞樹。元気でたか?」

俊介は、顔を痛みで歪めながらも、僕に親指を立て

笑顔を浮かべながら言った。

「ああ。スゴイよ。やっぱ、オマエは・・・・」

「オマエのために勝ったんだぞ!

瑞樹もただ立ち止まってるんじゃなくて気合みせろよ。

自分のやりたいこと見つけたんだろ?

彼女のことは仕方ないさ。きっかけはどうあれ、

彼女目当てで音楽をやりたいって思ったわけ

じゃないんだろ?

それにオマエを好きでいてくれる人もいるんだぞ。

オレたちだって、そうさ。みんなオマエの笑ってるトコを

見たいんだよ」

「・・・ああ」

僕は、思わず涙ぐんだ。

ここまで言ってくれる人が僕には、いたんだ。

下ばかり向いて立ち止まってるだけじゃ、きっと

何も進まない。

前を向いて、しゃんと上を見上げるように

僕は歩いていかなければならないんだ。

上を見上げることにより、後ろにつんのめりそう

になっても、僕にはきっと支えてくれる友人たちがいる。

どんなに素晴らしいことなんだろう。

かすんでいた視界は、空が晴れ渡るように僕の目の前に

くっきりと照らし出された気がした。

「おいおい。さっき笑ってるトコが見たいって

言ったばかりだろ」

ハハハハハッ。

「あ・・・ああ。ああ・・・」

僕は笑顔を浮かべた友人に囲まれ、

ただ、その場で泣きじゃくってしまっていた。

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其之参拾八

「はじめ!!」

主審の一声で仕合は始まった。

「イエエエエエ!!」

「オーーーー!!!」

両者の声が会場に響いた。

案の定、石川の連打が俊介を強襲。

パン!!パン!!!パン!!!パン!!!!

パァーーーーーーーーーーーーーン!!

「小手あり、一本!!!」

なんと、数秒で俊介が小手をとられてしまった。

「あ・・・・」

僕は、ふいに言葉を発した。

まさか、これほどカンタンに俊介が一本を奪われると

思っていなかった。

ザワザワザワ・・・・

会場内は、俊介のこんな姿を想像していなかったのだろう。

女生徒の悲鳴も所々で聞こえた。

しかし、まだ試合が終わったわけではなく

すぐさま、二本目が始まった。

しかし、その瞬間だった。

パシーーーーーーーーーーーーーーン!!!!

それは、残酷なほど綺麗に決まった。

会場は静まり返った・・・が、その後、大きなうねりを

あげた。

「胴あり、一本!!!」

俊介の竹刀が石川の胴を打ちぬいた。

「す、すげー・・・・やっぱ、俊介だ・・・・・。

こりゃ、まだまだわからんぞ」

スマイリーたち剣道部員が、間近で観ているのが見える。

僕は、ついサングラスを外して、その後の試合のなりゆき

を見守った。

「ウッシャアア!!!!!!!!」

石川は、たたみかけるように連打をつづけたが、

俊介は、それをうまくかわしている。

その攻防はしばらく続き、会場はツバを飲み込む音が

聞こえるほどに静まり返った。

それは、まるで二人だけの空間を創り出しているようでも

あった。

そして、俊介がついに動いた。

その竹刀の描いた軌道は鮮やかに、観る人々の心を

一瞬にして奪い去った。

面を打つとみせかけた、かつぎ胴。

パアーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!

「胴あり、一本!!!勝負あり!」

ワアアアアアアアアアアア!!!!

割れんばかりの歓声に武道館内が包まれた。

やった!ついに、俊介が念願の県大会優勝を手にした。

僕はすかさず、喜びを分かち合う剣道部員の元へ行き、

俊介の胴上げに参加した。

「あ。アイツ!今、自宅謹慎中のはずだぞ!」

そこには、たまたま僕の担任の井上が会場に

訪れていた。

「まあまあ、先生。いいじゃないですか。

聞く所によると、いじめられている女生徒を

かばうために、やったらしいじゃないですか。

それに、ようやく三村が、念願の初優勝を飾ったん

ですから。

ここは、目をつぶりましょうや」

「むむぅ・・・・」

剣道部の顧問のキムっさんは、上機嫌らしく、

僕をかばってくれたようだ。

淀んだ梅雨の雲間からは、新しい季節の訪れを

告げるかのように無数の光が射していた。

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2008年8月11日 (月)

其之参拾七

生暖かい空気が館内を満たし、その場を埋めた

人々の額からは汗が絶えず流れ出ている。

ただ、それは決して淀んだ雰囲気ではなく、

黄色い声援を上げる女生徒たちに埋め尽くされていた。

「すごいな・・・これ、俊介効果か!?」

僕は、その女生徒の数に圧倒された。

そう、何ヶ月か前に雑誌に特集されたんだ。

その雑誌は、剣道誌という一般向けのものではなかった

のだが、そこから、口コミで火を噴き、

『今話題の高校生』としてファッション誌に掲載された

のが原因だろう。

その誌面には、正座をした俊介が面を外し、膝の上に

置いた状態で写されていた。

さすが、プロの撮った写真だ。陰影が俊介の引き締まった

マスクを強調していた。

ファンが増えるのは仕方ないことだ。

俊介自身困惑してはいたが・・・。

僕は、俊介に言われるように、変装して武道館内に

潜り込んでいた。

サングラスとキャップをかぶっていたんだが、女生徒の中

でさすがに、これは浮いてるんじゃないかなと自分でも

思った。

「おい。アレ、瑞樹じゃねぇ?」

「え?あ、ホントだ。アイツ、バレバレだよ・・・ハハ」

「俊介!瑞樹、来てんぞ」

「ああ、来てくれたんだな。よし、ガンバるかんなっ」

俊介たちが僕の方を見て、何やらクスクス笑っていた。

多分、こんなやりとりをしていたのではないだろうか。

僕は、この蒸し暑い中、剣道部の勇姿を見守ったんだ。

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団体戦はやはり力及ばず、二回戦敗退という惨たんたる

結果に終わった。

しかし、個人戦は、やはり順当に勝ち進み、

決勝、俊介対城北高校の石川という図式になった。

石川という選手は見た目にゴツく、力技で押してくる

タイプではないかと容易に想像がついた。

対して、俊介はスラッとした体型で、

こういった選手には押し負かされるんじゃないかと

僕は不安になってしまうほどだった。

でも、あの自信ありそうな俊介の声を聞く限り、

かならずやってくれると確信していた。

そして、その一戦が今にも始まりを告げようかと

女生徒の黄色い声援が会場内を

クレッシェンドしていった。

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2008年6月24日 (火)

其之参拾六

「そうか・・・・・」

俊介は電話越しに僕に言った。

「オレも、オマエら、お似合いだと思っていたんだ

けどなあ・・・。

まあ、仕方ない・・・。

でも、その藍ちゃんってコ、大切にしてやりなよ。

すげーいいコじゃん」

「ああ、わかってる・・・」

「そうかー。瑞樹にもとうとう彼女が出来たか。

相手は違っても、喜ぶべきことじゃん。

二人で楽しい思い出を増やしていけば、

あのコのことだって、すぐに忘れられるさ」

「・・・ああ。ありがとうな」

「なら、今度ダブルデートでもするか?

オレも、瑞樹の彼女ってコに会ってみたいしさ。

オレの彼女も紹介したいし・・・」

「・・・ああ、また今度・・・」

「なんだよ!まだ引きずってるのか?・・・

あ、そうだ。今度の日曜、剣道の県大会があるんだ。

オレが優勝した姿を見せてやるよ。

絶対、来いよ」

「・・・いや、オレ、停学謹慎中なんだけど・・・」

「変装でもして来いって。

オレがオマエの笑顔を取り戻してやるよ!

って、ちょっとクサいか。

絶対来いよ。じゃあな」

俊介は僕をなんとか励まそうとしているのが分かった。

いまだ麗華のことが頭から離れない僕は、

自分のことが嫌になった・・・。

いつになったらこの胸に刺さったトゲが抜け落ちる

のだろう・・・。

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其之参拾伍

僕は公園のブランコに腰かけたまま、しばらくの間

うつむき、考え込んでいた。

その後、今まで赤味がかっていた夕焼けは、

薄暗い闇雲に包まれ、やがては雨を降らせた。

僕は傘もささずに、その雨にただ打たれていた。

それはまるで、僕の痛みをキレイに

洗い流してしまいたいがためのようでもあった。

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「瑞樹さん!どうしたんですか!?

ズブ濡れですよ・・・」

そう言って、赤い傘を手にした女の子が

僕に近寄ってきた。

藍ちゃんだ。

僕は、あの後つい、藍ちゃんにメールして、

この公園に呼び出してしまったんだ・・・。

近寄ってきた藍ちゃんを、僕は間もなくギュッと

引きよせ、そのまま強く抱きしめた・・・・。

「・・・瑞樹さん・・・・」

藍ちゃんは、僕に何があったのかを漠然と

気が付いたようで、何も言わずそのまま僕を

抱きしめ返してくれた。

僕はなんて、卑怯な人間なんだろう・・・

一度は引き離そうとした女の子を、自分が傷付いたから

といって、その傷を癒してもらいたいがため、

利用してしまっているようなものだ・・・。

僕はなんて、弱い男なんだろう・・・

ただ、その小さな体は、雨に冷たく震えながらも、

僕を包み込んでくれていた。

その心底に溢れるぬくもりを感じた僕は、

この華奢な肩を、この濡れた綺麗な黒髪を、

この潤んだビー玉のような瞳を、愛おしいと思ったんだ。

真っ赤な傘は持ち主を失い、そのまま僕らの横を

転がり、風に舞った。

そして、冷たい雨に打たれながら、

二人のシルエットは近づき、しばらく離れなかった・・・。

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2008年6月12日 (木)

其之参拾四

「麗華ちゃん、瑞樹くん、ちょっと」

僕と麗華は、園田に呼ばれた。

「こちら、叶絵里さん。実は僕たち、結婚すること

になったんだ。紹介しておこうと思って」

麗華は動揺し、落ち込んだ表情をしたが、それを

隠しこんだのが、僕には分かった。

「・・・そ、そうですか。店長、絵里さん、

おめでとうございます・・・」

麗華はそう言うとすかさず、僕の腕を掴んで店を出よう

とした。

「ありがとう・・・って、あれ!?

麗華ちゃん、どうしたの??」

「なんでもない・・・」

麗華は涙を隠そうとしたが、それは思わず溢れてきた。

僕は、店長に一礼して、麗華と共に店を出た。

麗華は、もちろん、園田のことを好きだという気持ちを

僕に知られてしまったと感じていた。

僕も、当然、それが分かっていたから、帰りの道中は、

なんともいえぬ雰囲気のまま、二人共、

口を開かなかった。

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そして公園まで戻ってくると、麗華は誰が見たって

作り笑いと分かるような笑顔を僕に見せ、

思い出したように言った。

「あ。そういえば、沢村くん、話しがあるって

言ってたよね」

「・・・うん・・・ああ・・・・」

僕は、覚悟を決めた。

「オレ、藤崎さんのことが好きなんだ。

あの日逢って以来ずっと、君の事で頭の中がいっぱいに

なっちゃってさ・・・

今日はそれを言おうと思ってたんだ」

ついに言ってしまった。

心臓が破裂しそうなほどに高鳴る僕の鼓動は

彼女にも聞こえたかもしれない。

麗華は、涙を流しながら答えた。

「・・・・ありがと。・・・でも、ゴメンね。

私、園田店長のことが好きだったの・・・」

僕は、すかさず麗華を強く抱き寄せて言った。

「うん・・・・。さっき、分かった。

でも、あの人、結婚するんだよ。

・・・・オレじゃ、ダメかなぁ?」

少しの静寂の後、麗華は僕の腕を振りほどいた。

「・・・ゴメン。やっぱり今は考えられない・・・」

そう言って、走り去る彼女の姿を、僕は見送った・・・

なまぬるい風が僕にまとわりついたまま、

離れようとはしなかった。

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2008年6月 7日 (土)

”キリサメブルー人物相関図”

Kirisame_soukanzu

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2008年6月 4日 (水)

其之参拾参

その週の日曜日が訪れた。

停学中で、本当は自宅謹慎していないといけない

身だったけど、僕は麗華に会いに、

約束をしていた、あの公園へと向かった。

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「よお!」

「あ、沢村くん、ゴメンね・・・

私のせいで・・・」

麗華は、少し涙ぐんで僕に謝ってきた。

「いや、いいんだよ・・・

オレが勝手にやっただけのことだから

・・・でも、おかげで、ギターを練習する時間が

出来たよ・・・はは」

「グスッ・・・あは・・・・そうだね」

麗華は涙を貯めながらも、笑顔をみせてくれた。

「しかし、ヒドいな・・・もう長いの?」

「・・・・うん。でも、私が耐えれば

済むことだから・・・」

「だめだって。そんなこと言ってちゃ・・・

今度また、何かあったらオレが駆けつけてやるよ」

「・・・ううん。いいの。沢村くんに迷惑かけちゃうだけ

だもん」

「迷惑なんかじゃないよ。オレの先生じゃん。

今度はオレが藤崎さんに恩を返さなきゃ、だろ?」

「・・・うん・・・・ありがと」

「実はさ、今日はちょっと話があって・・・・」

僕はついに、切り出そうとした。

「・・・・あ、ちょっといいかな?」

麗華に話の腰を折られてしまった。

「実は、スウィンドルの新譜買いたいんだ。

BLUE STEPSに買いに行きたいんだけど、

それからじゃダメかなあ?」

「・・・ああ、スウィンドルね・・・・

うん、いいよ。別に急ぎはしないし・・・」

「ありがと。じゃあ、いこ!」

麗華は僕にいつも見せてくれる笑顔をようやく

完全に取り戻してくれたようだ。

この笑顔を曇らすモノから僕は彼女を守りたい、

そう思えた。

僕らは、自転車に乗って駅前に向かった。

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「お。麗華ちゃーん!!」

その道中で、向井大輔と鈴木恵に会った。

「あ、こんにちわ」

「今日は、どうしたの?」

「あ、これから、CD買いに行こうと思って・・・」

「ああ、そうか。スウィンドルのアルバムが出てたっけ」

「うん。私、ハマってて・・・」

「・・・・そっか。で、そこの彼は?」

大輔は、僕に手を向けて言った。

「あ、同じ学校の沢村瑞樹くん」

「沢村くんか、こんにちわ。はじめまして。

向井大輔です。こっちが、鈴木恵」

「こんにちわ。鈴木です」

「あ、こんにちわ。沢村瑞樹です。はじめまして」

「沢村くん、最近、ギター始めたんだよ。

いずれ、ストリートデビューすると思うから、

よろしくね」

麗華は、満面の笑顔を二人に見せた。

「へー。じゃあ、そん時は聴かせてもらうよ」

大輔は麗華を、妹を見るような目で見ているのが

僕にも分かった。

そこで、しばらく話しをして、二人とは別れ、

僕らは、また駅のほうへと向かった。

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「ねえ。あのコじゃない?麗華ちゃんの言ってた、

好きな人って」

恵は、大輔に向かって興味深そうに言った。

「ああ、そうかもな。今まで、麗華ちゃんは、オレらに

元気よく、笑顔を見せてくれてたけど、

どこか影が見えたんだよな・・・・

それが、彼の前では違ってたように見えたよ」

「うん。私もそう思うな・・・・。

あの二人、うまくいくといいね」

「ああ、そうだな。・・・

あ、でも、幸雄くんは・・・?」

二人は、顔を見合わせて笑った。

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「店長!こんにちわ」

「おお、麗華ちゃん、こんにちわ。

お、沢村くんも、こんにちわ」

「あ、こんにちわ」

「今日はどうしたんだい?」

園田は、麗華に優しく問いかけた。

BLUE STEPSの店内は、お世辞にも客が多いとは

いえなかった。

すこしヒマそうにしていたのかもしれない。

「スウィンドル、まだあるかなあ?」

「ああ、うん。まだあるよ。そういや、麗華ちゃん、

スウィンドルの大ファンだったもんね」

「うん。じゃあ、それ、ください」

「おお、ありがとーね」

園田は、CDを袋に入れ始めた。

その頃、僕は小物のコーナーで、ピックやカポタストを

見ていた。

「いいの、あった?」

背後から、買い物を済ませた麗華が僕に問いかけてきた。

「うん、コレとか買おうかな・・・」

そう言って、僕は麗華のほうを振り向こうとした。

その瞬間、彼女は店長の方を見て、何かに気付き、

そして、沈んだ顔を見せた・・・。

園田は、年齢からすると二十代半ばくらいの地味目な

女性と親しげに話しをしていた。

麗華は、それを見かけてしまったんだ・・・・。

僕は気付いてしまった。

麗華が、園田のことを好きだということに・・・・。

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