其之参
「何見てんだっ!」
僕らが並んで立っているのを遠巻きに見ている連中に向かって、武は怒鳴った。
武は竹刀を投げてしまった張本人だ。
しかし、彼の顔は生来、「いつも笑っている」かのようで、そのせいで「スマイリー吉田」とか「スマイリー」なんて仇名で呼ばれていたりした。憎めないヤツだ。
正直、その表情は怒っているようには見えなかった。
そこへ下級生と思われる女の子二人組が横切った。すれ違いざま、クスッと微笑んで。
「・・・・惚れた・・・・。」
武はポツリと洩らした。
「これで何度目だよ!?また相手にされないって。」
沢井和也が呆れた顔で言った。
和也は、僕と同じクラスだ。出席番号が並んでいることから仲良くなった。
和也は、この五人の中で、一番、頭がキレる。だが、こんなバカ騒ぎにも参加してくる変わったヤツだ。
「行かなきゃわかんねーだろっ!」
スマイリーはすぐさま、彼女たちを追いかけた。
彼の戦績はもちろん惨たんたるものだったが、この行動力は見習うべきものである。
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しばらくして、スマイリーは僕らのもとへ戻ってきた。
あいかわらずの笑顔だったので、遠目からその結果は分からなかった。
「やったぞ!おい!メアド、ゲットしたっ!!」
「ウソッ!?マジで???」
僕らは一斉に声を吐き出した。
「どっちのコよ??オレ、あのショートのコ、可愛いと思ってたんだ。」
谷本正樹がスマイリーに聞いた。
「おい、それは都合よすぎだろ・・・」と内心、僕は思った。
谷本は小柄で黒縁のメガネをかけていた。すばしっこいヤツで、剣道場から逃げるのもコイツが一番速かった。でも芋づる式でバレてしまったワケだが・・・。
すこし、利己的なトコもあるが、その愛嬌ゆえかコイツも憎めないヤツだった。
「ショートに決まってんだろ。」
たしかに、あのクスッと笑った表情に、一瞬で虜になるのも無理はない。
多分、僕らは皆そう思っただろう。もう片方のコもそんなに悪くはなかったけど。
スマイリーの笑顔は更に笑顔で溢れているように見えた・・・
いや、本当のことを言うと、よく分からなかった。これは内緒だ。
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