其之拾
♪~時間は、君をさらうように螺旋を描いてく~♪
「チェスフィーの【君を想いて】か・・・。」
大輔は、無精髭をジョリジョリっと撫でるように腕を組みながら幸雄の演奏を聴いた。
チェスフィー・・・チェスターフィールド。青春時代を切なく、時に爽やかに彩るポップな楽曲中心の初期、精神世界に深く切り込んだ歌詞、暗闇をまさぐるようなマイナーな曲調の多かった中期でライトなファン層を削るも、ヴォーカル緋村涼史(ひむらりょうし)の原点回帰によって、ポップ志向が復活。昨今のジャパニーズロック界の重鎮となるバンドである。
その初期の傑作、セカンドアルバム【MY LOVE】のトリである楽曲【君を想いて】
しっとりしたマイナーな出だしから、徐々に力を帯びていき、サビで爆発、ラストは転調し、その最高音部は、一般の男性では、出せる人の方が少なかった。
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幸雄は、歌い終え、額の汗を拭った。
「どうですか??」
そしてキラキラと輝く目で大輔を追った。
「ん。そうだね・・・。やっぱりまず、楽曲を見直した方がいいんじゃないかな?
チェスフィーの楽曲を歌いこなすには、キーが低すぎる。
ラストはやっぱり、出てないしね・・・。」
大輔は厳しい表情をしながら、幸雄につきつけた。
「自分のキーにあったアーティストのコピーをした方がいいんじゃない?」
恵も、大輔に続いて言い放った。
「・・・・そうですか・・・・。」
明るさが取り柄でもある幸雄の表情が曇る。
「ギターは、始めたばかりだよね?まあ、やっぱり転調後にもたってるね。それは仕方ないか・・・。」
幸雄はますます落ち込んだ。
「でもね、君の声質、イイと思うんだ。低音に魅力がある。出だしなんか、オッ!と思ったよ。ワイルダネスのような青春パンクとか、草薙隆一なんかが合いそうだけど。あと、ギターもちゃんと練習してから、ストリートに立ったほうがいいよ。一度、コイツはダメだと思われたらなかなか、人は寄ってこなくなると思うし。」
ワイルダネスは、もう解散して10年ほどになるが、いまだに根強い人気のある青春パンクバンドである。スリーコード中心の楽曲で、現代の高校生バンドでさえ、彼らのバンドスコアからバンド活動を始めるほどである。
一方、草薙隆一は、元々、ミュージシャンとしてデビューしたのだが、不遇の時代を抜け、不本意ながらも俳優活動で人気を得、その後、楽曲の良さが見直され、見事ミリオンアーティストになった中堅どころである。
その二組に共通するのは、まず、キーが低い。キャッチーで、シンプルなメロディー、歌詞も分かりやすく、ギター弾き語りには、うってつけといったところだろうか。
幸雄は、おじぎをして
「そうですね・・・。たしかにラスト高音部、キツイです。指板に目が行き過ぎるんで、もたってしまう・・・。アドバイスどうもありがとうございました。オレ、また修行つんで出直してきます。そのときには、また聴いてやってくれませんか?」
大輔と恵は、微笑みながら
「いいよ。いつでも、おいで。絶対、練習次第で良くなると思うから、そのときには、こちらこそ是非聴かせてよ。」
と、幸雄の肩を叩いた。
「ありがとうございます!」
幸雄は、二人に礼を言って、ギターや譜面台を片付け始めた。
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