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2007年12月

2007年12月26日 (水)

其之拾

♪~時間は、君をさらうように螺旋を描いてく~♪

「チェスフィーの【君を想いて】か・・・。」

大輔は、無精髭をジョリジョリっと撫でるように腕を組みながら幸雄の演奏を聴いた。

チェスフィー・・・チェスターフィールド。青春時代を切なく、時に爽やかに彩るポップな楽曲中心の初期、精神世界に深く切り込んだ歌詞、暗闇をまさぐるようなマイナーな曲調の多かった中期でライトなファン層を削るも、ヴォーカル緋村涼史(ひむらりょうし)の原点回帰によって、ポップ志向が復活。昨今のジャパニーズロック界の重鎮となるバンドである。

その初期の傑作、セカンドアルバム【MY LOVE】のトリである楽曲【君を想いて】

しっとりしたマイナーな出だしから、徐々に力を帯びていき、サビで爆発、ラストは転調し、その最高音部は、一般の男性では、出せる人の方が少なかった。

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幸雄は、歌い終え、額の汗を拭った。

「どうですか??」

そしてキラキラと輝く目で大輔を追った。

「ん。そうだね・・・。やっぱりまず、楽曲を見直した方がいいんじゃないかな?

チェスフィーの楽曲を歌いこなすには、キーが低すぎる。

ラストはやっぱり、出てないしね・・・。」

大輔は厳しい表情をしながら、幸雄につきつけた。

「自分のキーにあったアーティストのコピーをした方がいいんじゃない?」

恵も、大輔に続いて言い放った。

「・・・・そうですか・・・・。」

明るさが取り柄でもある幸雄の表情が曇る。

「ギターは、始めたばかりだよね?まあ、やっぱり転調後にもたってるね。それは仕方ないか・・・。」

幸雄はますます落ち込んだ。

「でもね、君の声質、イイと思うんだ。低音に魅力がある。出だしなんか、オッ!と思ったよ。ワイルダネスのような青春パンクとか、草薙隆一なんかが合いそうだけど。あと、ギターもちゃんと練習してから、ストリートに立ったほうがいいよ。一度、コイツはダメだと思われたらなかなか、人は寄ってこなくなると思うし。」

ワイルダネスは、もう解散して10年ほどになるが、いまだに根強い人気のある青春パンクバンドである。スリーコード中心の楽曲で、現代の高校生バンドでさえ、彼らのバンドスコアからバンド活動を始めるほどである。

一方、草薙隆一は、元々、ミュージシャンとしてデビューしたのだが、不遇の時代を抜け、不本意ながらも俳優活動で人気を得、その後、楽曲の良さが見直され、見事ミリオンアーティストになった中堅どころである。

その二組に共通するのは、まず、キーが低い。キャッチーで、シンプルなメロディー、歌詞も分かりやすく、ギター弾き語りには、うってつけといったところだろうか。

幸雄は、おじぎをして

「そうですね・・・。たしかにラスト高音部、キツイです。指板に目が行き過ぎるんで、もたってしまう・・・。アドバイスどうもありがとうございました。オレ、また修行つんで出直してきます。そのときには、また聴いてやってくれませんか?」

大輔と恵は、微笑みながら

「いいよ。いつでも、おいで。絶対、練習次第で良くなると思うから、そのときには、こちらこそ是非聴かせてよ。」

と、幸雄の肩を叩いた。

「ありがとうございます!」

幸雄は、二人に礼を言って、ギターや譜面台を片付け始めた。

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2007年12月 3日 (月)

其之九

ジャーーーーン、ジャンッ・・・・

「ふう・・・・。いやー・・・全く人集まんないな・・・・・・。」

桐野幸雄は、アコースティックギターをかき鳴らしていた手を止めた。

「やっぱ、オレ、ダメなのかなあ・・・・。」

幸雄は、最近、路上に出てギターを弾くようになった。

正直、その腕前は人に聴かせるほどのものではなかったが、歌を歌うことが好きで、毎日のように同じ場所で弾き語りをしていた。

ただ、やはり、素人に毛がはえた程度の腕だとしても、人の注目を浴びたくなるのは当然なのかもしれない。

なにぶん、目立ちたがり屋な性格だ。

ちょっと離れた場所で弾き語りをしている男女のデュオの前には、三十人ほどの人がかたまり、二人の演奏に耳を傾けているのが分かった。

幸雄は、右腕で汗をぬぐい、その演奏の輪に足を向けた。

「この二人の演奏で何か得るものがあるかもしれない。」・・・・そう思って。

ここは、青嵐高校に最寄の双葉駅前。大きい噴水がシンボルとなっている。

薄暗くなった駅前は、忙しそうな人波にゴッタ返していた。

仕事を終え、帰路につく社会人の足を演奏で止めることは、なかなか難しい。

しかし、このデュオの前には、人だかりができている。

幸雄は、しばらく演奏を聴いた。

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「ありがとーございましたっ!」

「また明日も六時からやりますんで、よろしくおねがいしまぁーす。」

「あと、25日にライブハウスでやるんで良かったら見に来てください。」

パチパチパチッ・・・・

たくさんの拍手が鳴る中、二人はギターをハードケースにしまい始めた。

そして人だかりは、蒲公英が綿毛を飛散するように、一斉に街へとばら撒かれた。

その前には幸雄だけを残して・・・・。

「よかったっす。二人の演奏、マジ感動しました・・・・。弟子にしてくださいっ!」

幸雄は、急に土下座をした。

「いや、何やってんの?そんなことされても・・・・。」

向井大輔は、ひざまづいた幸雄を立たせようと腕をつかんだ。

「いや、マジで、お願いしまっす。てか、オレを混ぜてくれませんか?」

「このコ、調子ええわ。」

鈴木恵は、クスクス笑いながら、譜面立てをしまう手をとめた。

「オレ、最近、ココに出没するようになったんすけど、人が全然集まらないんです。」

「出没って・・・。」

大輔と恵は目を見合わせて、大笑いした。

二人は、どこか落ち着いた風貌をしていたので、幸雄より年上だということは見て取れた。

「混ぜるのはちょっと・・・出来んけど。んじゃ、ちょっとギター弾いてもらっても良いかな?」

大輔は、腕を組みながら、まだ土下座したままの幸雄に言った。

「あ、はい!はいっ!!・・・・・・・・・あ!ギター置いてきたままやっ!!!スンマセン、ちょっと取ってきますっ!!」

幸雄は、すっくと立ち上がり、アーケードの横を走ってギターを取りに向かった。

花屋のシャッターが、その風圧でガシャガシャと鳴り響いた。

「ホンマ、せわしいコやなあ・・・・。」

恵はクスクスと笑いながら、大輔の肩を叩いた。

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其之八

「剣道場は・・・と。・・・・・お。あそこだっけかな。」

健太は、割れたガラスの間から身を潜めながら、剣道部の練習風景を覗いた。

「ウォォォー!!!」「ウォリャーーーーッ!!!!」

パシーーーーーーーーンッ!!!!パァーーーーーーーーン!!・・・・

「うん?三村、いねぇのか?・・・」

剣道場に、俊介の姿はなかった。

「この時期に練習もしないなんて、呆れたな・・・。もはや、オレの敵でもないか・・・。・・・・んっ?」

健太は、自転車を押し女生徒と話をしながら校門を出る俊介を見かけた。

「おい!アイツ帰んのか!??」

健太は、急いで俊介を追いかけた。

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「おいっ!三村ァッ!!!」

「あぁ!?・・・・・・・・・・ん??お前は・・・石川??・・・なんで、こんなトコに??」

俊介は振り返りにらみつけたが、そこにはライバルの健太が鬼のような形相で立っていた。

「こんな時期だというのに、もう御帰宅かい?これじゃ、今回もオレの優勝は動かないな。ハッハッハッ・・・。」

「ああ。そうかもな。オレもう剣道に興味ないんだ・・・。」

「はぁ??マジでかッ!??呆れてモノも言えんぜ・・・。オマエ、オレにやられたままで、悔しくないんか?」

「もう、いいよ・・・。まあ、ガンバってくれ。じゃあな。」

そう言って俊介は、自転車を押し進めた。

「チッ!面白くねェ・・・。オレはオマエと戦うのを楽しみにしてたんだぞ!・・・おいッ逃げんなッ!!!」

健太は、茜空の下、遠くなる俊介と女生徒の影をひとり呆然と見つめた。

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「最近、俊介、部活休みすぎじゃねぇ?」

僕は、図書室に向かう廊下で和也に聞いた。

「ああ。ガンバってたのにな・・・。多分、あのコと本格的に付き合うようになってからじゃないか?」

「翔子ちゃんだっけか?・・・そういや、あのコ、キツそうじゃない??」

「そう思う??実はオレもそうなんだよな。まあ、喋ったことないからホントのトコはどうか分からんけど・・・。」

和也は、呆れた様子で、僕に言った。

何日か前、俊介は今大会に賭けていると和也は嬉々として言っていた。ここ何日かで状況は一変したというのだろうか?

あのコに骨抜きにされてしまったというのだろうか・・・・?

僕は、今まで一番仲が良いと思っていた俊介のことを、本当は全く知らないのかもしれない。

今回も彼女のことを話しては、くれなかったし、剣道のことにしてもそうだ。

たしかに、僕は剣道部に在籍していない。

ただ、中学の頃は、剣道の面白さ、厳しさ、いろんな話をしてくれたものだった・・・。

それは、他のヤツらも感じていることなのかもしれない。

僕らは、最近つれない俊介を、遠くに感じていた。

「まあ、女にハマったら仕方ないかもしんないな・・・。でも、惜しいよな・・・・。」

和也は剣道を諦めた自分の分まで、俊介に期待していたのだろう。

そんなことは、俊介には重荷にしかすぎないことは、よく分かっている。

ただ、俊介には、人に期待させる何かがあるのだ。

「そんなもんなのかなあ・・・。最近、アイツのこと、よく分からんようになってきたかもしんないわ・・・。」

「だんだんそうなっていくもんさ。皆、誰かを好きになると、そこしか見えなくなる。お前だってそうさ。それに多分、卒業したらオレらも皆会わなくなってくるんじゃないかと思うよ。」

「・・・・・ああ。そう思うとなんか寂しいな・・・・。」

「ところで、スマイリーの合コンどうなったんだ?」

和也は、話を切るように言った。

「ああ、えっと・・・・。」

そして僕は、その日のことを和也に話し始めた・・・・・。

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