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2008年4月

2008年4月24日 (木)

其之弐拾壱

僕は和也に合コンの日の出来事を話した。

ミキちゃんが和也を好きだってこと、

帰り道で出会った麗華のことは伏せて。

「へー。じゃあ、瑞樹が一番いい思いしてんじゃん。

藍ちゃんってコにはその後連絡したの?」

和也はシャーペンを器用に廻しながら言った。

「いや・・・。それがまだ・・・」

僕はうつむいて答えた。

「え?なんで??」

「いや、実は気になるコがいてさ・・・・。

もちろん、藍ちゃんはイイ娘でカワイイんだけど・・・」

「え、そんなコいるんだ?同じクラスか?」

「それが・・・・二年の時、和也も同じクラスだった

藤崎麗華ちゃんってコなんだ」

「・・・ああ、あの藤崎か。まあ、可愛いけど・・・。

なんか地味だったなあ。

たしか女子からはハブられてたような・・・」

「やっぱ、そうなの?

なんでそんなハブられてたりするんだろ?

オレが会った時には明るくて

いい感じのコだったんだけど・・・」

「うーん。そうだなあ・・・

そこんところはオレもよくわかんないんだ。

一年の頃からそんな感じだったみたいだから・・・。

って、瑞樹、藤崎と会ったの?」

「あ、・・・・うん。その合コンの帰り道に・・・」

「そっか・・・・。

で、藍ちゃんより藤崎のほうが気になるってことだ?」

「ああ。うん・・・。

彼女と話した時、なんかこう

胸がしめつけられるような気がした。

あんな気持ちは初めてなんだ・・・」

「そっかあ・・・。

しかし、瑞樹が恋愛話をするなんて

思ってもみなかったな」

和也は微笑みながら言った。

その笑顔はどこか大人びていて、余裕がうかがえた。

そんなところに、

女の子は惚れてしまうのではなかろうか。

「そんな気持ちになるなんてそうとうなモンだよな。

今までのお前は人を寄せ付けない雰囲気もあったし、

なにぶん、そんな浮いた話しなかったから」

「はは。そうかな・・・」

僕は照れながら言った。

「なら、オレも応援するよ。よかったな。

ようやくお前にもひとつの目標がみつかったんじゃん」

「ああ、サンキュ。

・・・人よりすこし遅いかもしれないけど」

「そんなの関係ないよ。

ただ、今までにそんな風に思えたヒトに

出遭わなかったってことだろ。

お前はお前のペースでいけばいいんだって」

「ああ、そうだな」

僕は和也に背中を押してもらった。

その掌はきっとあたたかくて、人を癒す力に溢れている。

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2008年4月14日 (月)

其之弐拾

「そうなんだよな・・・」

僕はたしかに中学時代のリンチ事件以来、何をやるのも放棄してきた気がする。

しかし何事も自分が動き出さなければ始まらないんだよな・・・。

麗華のまっすぐな瞳には、始まったばかりながらも自分の夢をしっかりと持っているところが僕にも分かるくらい輝きが満ち溢れていた。

彼女の言葉が胸を打ったんだ。

「・・・・オレもやってみたい・・・・・・」

僕の中に沸々と湧き上がってきていたモノは口に出さずにいられないほどになり、ついにはあふれ出した。

「あの・・・・・・オレもギターやってみたい。さっき言ったように、人を感動させる歌を歌いたいんだ。ちょうど、君の歌に感動したオレのように・・・。よかったら、教えてくれないかな・・・・」

麗華はギターのコードを鳴らした。

ジャラーーーーーーーーーーーン♪

「・・・・・・・いいよ。私も知らないことばかりだけど、教えられることがあるなら・・・。毎週この時間にココで練習してるから、その時でいいかなあ?」

「あ、う、うん。うん。・・・・おねがいします」

僕は手を合わせて麗華にお願いした。

「んじゃ、ギターも買わないとね」

麗華は駅のほうを指差して

「よく知ってる店があるんだ。駅前なの。今日も昼にそこに行ってたんだけど」

ああ、それで僕はあの時、麗華とすれ違っていたんだ。

「CDを買いに行ったんだけどね。そこにギターも売ってるんだ。店長がいい人でね」

「へー。どのくらいするものなのかな?」

僕はギターの値段を聞いた。貯金はしてたけど、さすがにあまりに高いのは買えない。

「そりゃ、ピンキリだけど・・・。最初は五万あたりのがいいんじゃないかなあ?安いの買ったらすぐ辞めちゃうかもしんないでしょ?あまり高すぎるのもムリだろうし・・・・」

「それは?」

麗華が抱えていたハミングバードを指差して聞いた。

「あ、コレはお父さんのモノだったから、ハッキリわからないけど高いよ。学生じゃムリだと・・・・」

「そうなんだ・・・・カッコいいね」

「うん。ありがと。私も大好きなんだ。・・・・・・お父さんの付けたキズが入ってるからってのもあるんだけど・・・・」

「なるほどね・・・・・・。じゃあさあ、もしよかったら、今度の日曜、そこでギター見たいんだけど付いて来てもらえないかなあ?」

「うん。いいよ。・・・・あ、もうこんな時間だ。私帰らなくちゃ・・・・・・・日曜の・・・じゃあ昼の12時にココで待ち合わせしよう?どうかな?」

「あ、うん、それでいいよ。もう暗くなっちゃったもんね。今日はありがと・・・・それじゃ」

「うん。それじゃ」

彼女とは手を振って、そこで別れた。

自転車を漕ぐ足取りは軽くなり、道中叫びながら家に帰った。

僕は何か始まりそうなあのワクワクした気持ちが久しぶりに胸を渦巻いた感じがした。

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2008年4月 8日 (火)

其之拾九

それは、聴いたことのないメロディだった。

しかし、その歌声は風に運ばれて、僕の耳を通過し、そして僕の心のフィルターを通り、溶け込むように沁みていった。

駅前から、岡井商店街を抜け、僕は家へと自転車を走らせていた。

しかし、商店街の近くにある小さな公園を横に過ぎ去ろうとした時のことだ。

僕のモヤモヤした心を癒すかのように、その歌声は響いていた。

ネックに指を滑らせる度にきしみ鳴る音と繊細なアルペジオ、それに乗せた歌声は美しいハーモニーを紡ぎ出し、辺りに響き渡った。

「なんて綺麗な歌声なんだろう・・・」

僕は自転車を漕ぐ足を止め、公園のベンチのほうへと目を向けた。

「あ、あのコは・・・行きがけに見かけた隣のクラスのコだ」

消極的な性格のはずの、僕はなぜかその時は勝手にそちらの方へと足が進んだ。

これが僕と藤崎麗華の出逢いだ。

「あ、あのー・・・」

僕は恐る恐る声をかけた。

「え?あれ??・・・・・・えーっと・・・・・・・隣のクラスの沢村君だよね?・・・・恥ずかしいとこ見られちゃったかな」

彼女はそう言うと、少し頬を赤らめてギターを弾く指を止めた。

「こんばんわ・・・・かな?この時間なら・・・・・って、なんで、オレの名前知ってるの?」

「こんばんわ・・・・あ、隣のクラスだし、最近、クラスの女の子たちが沢村君のこと、カッコイイって言ってたりしたの聞いてて知ってたんだ」

「え??そんなの初耳だよ。そんなら言ってくれればいいのになあ・・・・。こんなに女っ気がないのに・・・」

僕は驚き、とまどいながら言った。

「冗談、冗談・・・。沢井くんとよく一緒にいたから・・・」

彼女は手を口に当て笑いながら答えた。

「冗談かよ・・・・。って、やっぱ、和也のことか・・・。モテてんのは・・・・」

すこし、おどけながらガクッとした。いや、別にホントに傷ついたわけじゃないんだけど。

「ううん。冗談なのはなんで知ってるかってこと・・・。隣のクラスだから、体育の授業、合同でしたりするじゃない?その時、沢井くんとよく話してたから、沢井君の友達なんだなって・・・・。わたし、沢井くんとは2年の時、同じクラスだったから・・・。クラスの女の子たちの話はホントだよ。最近、沢村くんのこと、イイってよく言ってるの聞くし」

「あ、そうなの??・・・。え、っと・・・・」

僕は彼女を指差しながら、名前を探ろうとした。

「あ、私?私は、藤崎。藤崎麗華っていいます。沢村・・・・・えっと・・・・」

「ああ、沢村瑞樹。よろしくね。・・・・今の曲、聴いたことないんだけど、イイ曲だね。オリジナル??」

僕は、ここまで引き寄せられた彼女の歌っていた曲のことを聞いた。

「あ、うん。一応。【ハミングバード】って曲なんだけど、このギターの名前といっしょなの」

麗華が、かかえたギターは、ピックガードになにやら鳥のような模様が施されていた綺麗なギターだった。しかし、キズ跡が無数に入っており年季の入ったモノのようだった。

「へー。ハミングバードか。たしかに小鳥がさえずって歌うように綺麗な感じだった・・・」

「え、そんなに言ってくれるなんて嬉しいな。このギター、お父さんの形見みたいなモノなの。だから、この曲はお父さんに向けて作った曲で、タイトルもギターの名前にしたんだ。」

「あ・・・・ゴメン。親父さん、亡くなってたんだ・・・」

「ううん・・・・。でも、この曲まだ作ったばかりで、初めて感想聞けたからよかった」

麗華の微笑みはTVで活躍してる、そのへんのアイドルなんかより可愛く見えた。

「いやあ、ホントよかったよ。オレなんか誘い込まれるようにこの公園にたどり着いたんだから」

「あはは。でも、うれしい。ありがと。実は、プロのミュージシャン目指してるんだよね」

麗華はキラキラと瞳を輝かせて言った、その使い込まれたギターを大事にかかえこみながら・・・。

「オレも実は、音楽が好きなんだ。チェスターフィールドが大好きでさ・・・。あんな風に、音楽で人を感動させられたらなって・・・。でも、そんな楽器を弾く才能もないし・・・。ちょっと、羨ましいな・・・・」

僕は鼻をすこし掻きながら言った。

「楽器?私もそんなに出来ないよ。始めてそんなに経ってないし。ただ、コードを鳴らしてるだけ。始めようという意思があればいつだって遅くないし、どんな形だっていいと思う。やりたいことがあったら、なにか行動してみるのもいいんじゃないのかな?」

麗華の、映りこむ僕が見えるほどに澄んだ瞳に、僕は何かを見透かされているかのような感じがした。

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2008年4月 1日 (火)

其之拾八

高校に入学し、俊介は偶然にもアイツらと一緒のクラスになった。

僕だけは違うクラスだった・・・。

後に、和也から聞いたのだが、俊介が剣道部に入らなかったのは、中三の県大会の時にヤツに遇ってから、らしい。

そう、今は城北高校剣道部主将、石川健太だ。

決勝で合間見えたのだが、俊介は完膚なきまでにやられたらしい。

その実力の差に俊介は挫折を味わった。もう剣を捨ててしまおうと思っていた。

僕は当然、部活をする気もなく、かといって進学校の勉強にもついていけず、ただ学校に通うだけの毎日だった。

だが、俊介は、和也、スマイリー、谷本と仲良くなるうちに、また剣道を始めたくなったらしい。

そして、高一の夏に剣道部に入部した。もちろん、腕のある俊介はメキメキと頭角を現し、主力選手になった。

そこで、高二の県大会、ヤツと再び合間見えることになった。

接戦の末、敗れたが、中学の時ほど実力の差は感じなかったようだ。

俊介が成長したのか、石川の伸びが足りなかったのかは分からないが・・・・。

ただ、その一戦は雑誌にも取り上げられた。それは俊介のルックスからかもしれないが、一躍、俊介は青嵐のスターとなった。

僕はといえば、一日一日をムダに過ごしていたんだ・・・。

ときどき、俊介に

「瑞樹、なにかやればいいのに・・・。なにか興味あるもんないの?」と問われることがあった。

僕は

「・・・・なにもしたくないんだ・・・。」と答えるだけだった。

僕は、自らに鍵をかけて何もしようとはしなかった・・・。

そして、三年になってクラスメイトも様変わりし、僕は出席番号がひとつ前の沢井和也とよく話すようになった。

和也は凛々しい風貌で、女子にも人気があったが、当の本人はどこか飄々としていた。

それが男の僕でもカッコよく見えた。ある意味、憧れていたのかもしれない。

和也は剣道部員で、俊介と仲もいいことから、僕らは昼休みに剣道場に集まって遊ぶようになった。

五人でつるむ内に、僕はなにか人間的な感情を取り戻せてきたような気がした・・・。

そのころからだろうか、顔から険が取れたというか、表情が柔らかくなったと言われることも多くなったんだ。

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其之拾七

僕は、一人自転車を漕ぎながら家路についた。

駅から自宅までは自転車で20分といったところか。

考える必要もないといえば、そうなんだけど、その道中、スマイリーのこと、藍ちゃんのことが頭に渦巻いていた。

普通なら、女の子に電話番号を聞いたというだけで高揚し鼻歌まじりで帰るくらい僕は女の子に縁がなかったのだけど、どうもスマイリーのことでモヤモヤしていた。

自分は結構クールな人間だと思っていたのだが、最近、和也に指摘されるように何か変わったのかもしれない。

アイツらとつるむようになったのは高三になってからだった。

もちろん、俊介とは中学のころからの付き合いだ。

僕は中学までサッカー部に所属していた。これでも県下では結構有名な選手だった。

中三の時、県大会決勝で僕がPKを外したことが原因で敗れ、大会後、部室でリンチにあった。

それは、僕が今まで実力を鼻にかけていたフシもあったからだろう。

自業自得といえばそうなのかもしれないが・・・。

そこで僕はリンチの主格、サッカー部主将の真田正之だけを狙い、応戦した。とゆうより、もがいたのだ・・・。

やられたままでいられないという一心で、もがき足掻いた。

僕はボコボコにされ、足を折られた。

だが、真田だけは顔面が腫れ上がるほどに殴ってやったんだ。

僕は、部を辞め、停学になった。もちろん入院することになったのだが。

そして復学以降は人を寄せ付けない雰囲気があったようだ。友人と呼べる人間もいなくなった。

・・・・そのとき、声をかけてくれたのが俊介だった。

他愛もない話をしただけだった。でも、その時の僕にはそれで、どんなに救われたことだろうか。

当時の俊介は今からは想像もつかない容姿だった。頭は丸坊主で、制服も標準型。

生徒会長もしており、模範生徒の見本のようなヤツだった。

剣道の腕はそのころから抜きん出ていて、全国大会にも出場したほどだ。

俊介といる時は、僕は笑顔でいられた。それが唯一の時間だったのかもしれないほどに。

そして、高校に入学。俊介はなぜか、髪を伸ばし茶色に染めた。

剣道部に入部するものだと思っていたが、入学当時は剣道をやるつもりはなかったようだ。

その理由を僕には、なにもおしえてはくれなかった。僕も聞きはしなかった。

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