其之参拾九
「完敗だ。ちゃんと練習してたんだな」
石川が俊介に近寄り、握手を求めてきた。
「ああ。お前を倒すには生半可な稽古じゃムリだよ。
隠してて悪かった。この間は、すまなかったな」
俊介は、石川の手を握り、お互いの健闘を称えあった。
「しかし、よくその足で闘ってたな・・・・」
「え!?」
石川が、指差して言ったので、僕らは俊介の
右足首に注目した。
俊介の足首は、赤く腫れ上がっていた。
今まで誰も気付きはしなかったんだ。
「ああ、前の試合で、ちょっとな・・・。
ホントは立ってるのも、やっとなんだ」
俊介の額からは暑さによるものとはまた違った
脂汗のようなものがしたたっていた。
「その状態で負けたんだ。完敗だよ、今回は。
でも、今度は絶対負けねぇから覚悟しとけよ」
石川は、俊介の右手をさらにギュッと握り締めた。
「ああ。またな」
俊介もそれに呼応するように石川の手を握り返した。
その後、俊介は足を引きずりながら僕のところに来た。
「瑞樹。元気でたか?」
俊介は、顔を痛みで歪めながらも、僕に親指を立て
笑顔を浮かべながら言った。
「ああ。スゴイよ。やっぱ、オマエは・・・・」
「オマエのために勝ったんだぞ!
瑞樹もただ立ち止まってるんじゃなくて気合みせろよ。
自分のやりたいこと見つけたんだろ?
彼女のことは仕方ないさ。きっかけはどうあれ、
彼女目当てで音楽をやりたいって思ったわけ
じゃないんだろ?
それにオマエを好きでいてくれる人もいるんだぞ。
オレたちだって、そうさ。みんなオマエの笑ってるトコを
見たいんだよ」
「・・・ああ」
僕は、思わず涙ぐんだ。
ここまで言ってくれる人が僕には、いたんだ。
下ばかり向いて立ち止まってるだけじゃ、きっと
何も進まない。
前を向いて、しゃんと上を見上げるように
僕は歩いていかなければならないんだ。
上を見上げることにより、後ろにつんのめりそう
になっても、僕にはきっと支えてくれる友人たちがいる。
どんなに素晴らしいことなんだろう。
かすんでいた視界は、空が晴れ渡るように僕の目の前に
くっきりと照らし出された気がした。
「おいおい。さっき笑ってるトコが見たいって
言ったばかりだろ」
ハハハハハッ。
「あ・・・ああ。ああ・・・」
僕は笑顔を浮かべた友人に囲まれ、
ただ、その場で泣きじゃくってしまっていた。
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